現代倫理学 - メタ倫理学・応用倫理学・徳倫理学の展開
概要
現代倫理学は、20世紀以降、メタ倫理学・規範倫理学・応用倫理学という三つの主要な領域において多様な展開を見せてきた。メタ倫理学は道徳的言語の意味と道徳的判断の本質を分析し、規範倫理学は正しい行為の基準を体系的に探究し、応用倫理学は具体的な道徳問題への哲学的取り組みを行う。20世紀後半にはアリストテレス的な徳倫理学が復興され、義務論・功利主義に対する第三の規範倫理学的立場として確立された。現代の倫理学は、抽象的な理論構築と具体的な社会問題への応答の両面において、かつてない活力を示している。
メタ倫理学の展開
メタ倫理学(meta-ethics)は、道徳的言語・概念・判断の本質を哲学的に分析する分野であり、20世紀初頭に分析哲学の方法論のもとで発展した。
G・E・ムーア(1873-1958)は『倫理学原理』(1903年)において、「善(good)」を他の自然的性質に還元して定義しようとする試みを「自然主義的誤謬(naturalistic fallacy)」として批判した。ムーアによれば、善は単純で分析不可能な非自然的性質であり、直観によって把握される。この直観主義の立場は、後のメタ倫理学の出発点となった。
1930年代から1950年代にかけて、エイヤーの情動主義(emotivism)とスティーブンソンの主張が影響力を持った。情動主義によれば、「殺人は悪である」という道徳的判断は事実を記述するものではなく、話者の感情的態度(不賛成)を表現するものである。ヘアは指令主義(prescriptivism)の立場から、道徳的判断の本質的機能は行為を指令(prescribe)することにあると論じた。
20世紀後半には道徳的実在論が復興した。コーネル実在論(ボイド、スタージョン)は、道徳的性質が自然的性質と同一であるとする自然主義的な実在論を展開した。一方、マッキーは「錯誤理論(error theory)」を提唱し、道徳的判断は客観的な道徳的事実を主張しているが、そのような事実は存在しないため、道徳的判断はすべて偽であると論じた。
義務論と功利主義の現代的展開
規範倫理学における二大潮流――カント的義務論と功利主義――は、20世紀に入ってもそれぞれ精緻化と修正が進められた。
功利主義は、古典的な行為功利主義(各行為がもたらす効用を直接的に評価する)から規則功利主義(一般的に最善の結果をもたらす規則に従うことが正しい)への発展を経て、さらにピーター・シンガーの選好功利主義へと展開された。シンガーは、効用を快苦ではなく選好(preference)の充足として定義し、動物の利益の平等な考慮を要求する「動物解放」の倫理を展開した。
カント的義務論は、ロールズの『正義論』(1971年)において政治哲学的に再構成された。また、コースガードの「規範性の源泉」に関する議論や、オニールのカント的構成主義など、カント倫理学の現代的解釈は多様な方向に展開している。スキャンロンの契約論的道徳理論は、行為の正しさを「誰も合理的に拒否できない原理」に基づいて説明するものであり、カント的伝統の現代的な刷新として注目される。
徳倫理学の復興
20世紀後半における最も重要な倫理学的展開の一つが、アリストテレス的な徳倫理学(virtue ethics)の復興である。その嚆矢となったのが、エリザベス・アンスコムの論文「近代の道徳哲学」(1958年)である。アンスコムは、義務論と功利主義がともに、もはや根拠を持たない道徳的「義務」の概念に依存していると批判し、アリストテレス的な徳の概念への回帰を提唱した。
アラスデア・マッキンタイアは『美徳なき時代(After Virtue)』(1981年)において、近代の啓蒙主義的道徳哲学の「失敗」を論じ、アリストテレス的な徳の伝統の復権を主張した。マッキンタイアによれば、近代の道徳的言説が合意不可能な不毛な論争に陥っているのは、啓蒙主義が道徳を目的論的な人間観から切り離したためである。徳は、共同体の実践(practice)と人生の物語的統一の中でのみ意味を持つ。
フィリッパ・フットは「自然的善(natural goodness)」の概念に基づいて、徳を人間という生物種の繁栄に資する性格特性として捉え直した。マーサ・ヌスバウムは「ケイパビリティ・アプローチ」を展開し、人間の基本的な能力(capabilities)のリストに基づいて福祉と正義を評価する枠組みを提示した。
応用倫理学の展開
1960年代以降、現実社会が直面する具体的な道徳問題に哲学的に取り組む応用倫理学(applied ethics)が急速に発展した。
**生命倫理学(bioethics)**は、医療技術と生命科学の進歩が提起する倫理的問題を扱う。人工妊娠中絶、安楽死・尊厳死、臓器移植、遺伝子操作、生殖補助医療、インフォームド・コンセントなどが主要な論題である。ジュディス・ジャーヴィス・トムソンの有名な「ヴァイオリニストの思考実験」は、中絶の倫理を身体的自律の権利から論じたものであり、応用倫理学における思考実験の方法の模範となった。
**環境倫理学(environmental ethics)**は、人間以外の自然存在者に対する道徳的義務を探究する。人間中心主義を超えて、動物、植物、生態系、さらには大地そのものに固有の価値を認めるべきかという問いは、ソクラテス以来の「善き生」への問いを地球規模に拡張するものである。ピーター・シンガーの動物解放論、レオポルドの「大地の倫理」、ディープ・エコロジーなどが主要な立場を形成している。
情報倫理学、ビジネス倫理学、戦争の倫理など、応用倫理学の領域は現代社会の変化に伴って拡大し続けている。人工知能の倫理は、21世紀における最も喫緊の応用倫理学的課題の一つとなっている。
ケアの倫理とフェミニズム倫理学
キャロル・ギリガンの『もうひとつの声』(1982年)は、従来の道徳発達理論が男性的な「正義」の倫理を基準としており、女性に特徴的な「ケア」の倫理を看過していると批判した。ネル・ノディングスはケアの倫理を体系化し、抽象的な原理や規則の適用ではなく、具体的な人間関係における応答性と配慮を道徳の基盤とする立場を展開した。
フェミニズム倫理学はより広く、伝統的な倫理学理論が前提としてきたジェンダーの偏りを批判的に検討し、抑圧と支配の構造を倫理学の中心的問題として位置づける。形而上学的な人間本性の想定からジェンダー規範まで、フェミニズム倫理学の批判的射程は広範に及んでいる。