ポスト構造主義 - 構造の脱中心化と差異の思想
概要
ポスト構造主義(Post-structuralism)は、1960年代後半以降のフランスを中心に展開された哲学的・思想的潮流であり、構造主義の方法論的成果を継承しつつも、構造の固定性・閉鎖性・普遍性を批判的に乗り越えようとする立場の総称である。デリダの脱構築、フーコーの権力/知の分析、ドゥルーズの差異の哲学は、いずれも構造主義的な二項対立と体系性への批判を通じて、意味・主体・真理に関する従来の前提を根本的に問い直した。
ポスト構造主義は、ニーチェの系譜学的批判、フロイトの無意識理論、ハイデガーの形而上学の解体を重要な思想的源泉としつつ、構造主義が残した問題――歴史性・変化・主体の能動性――に応答しようとする思想的営為である。1968年の五月革命に象徴される政治的・文化的変動を背景として、ポスト構造主義は哲学のみならず、文学批評、歴史学、社会学、政治理論、ジェンダー研究など広範な領域に影響を及ぼした。
デリダと脱構築
ジャック・デリダ(1930-2004)の脱構築(déconstruction)は、ポスト構造主義を代表する哲学的方法である。デリダは、西洋哲学の伝統全体を貫く「ロゴス中心主義(logocentrisme)」を批判した。ロゴス中心主義とは、言語(ロゴス)の背後に確固たる意味の現前があると想定し、音声(パロール)を文字(エクリチュール)に優位させ、同一性を差異に、現前を不在に優先させる思考の体系である。
デリダは「差延(différance)」の概念を通じて、意味の完全な現前が不可能であることを示した。意味は差異の戯れの中で絶えず延期され、いかなるテクストも最終的な意味の確定に至ることはない。脱構築は、テクストの中に抑圧された矛盾や亀裂を見出し、二項対立の序列を揺さぶることにより、テクストが自ら前提とするものを内側から解体する読解の実践である。
フーコーの権力/知
ミシェル・フーコー(1926-1984)は、知と権力の内在的な結びつきを歴史的に分析することを通じて、近代的な主体・理性・真理の概念を根本的に問い直した。フーコーの方法論は「考古学」と「系譜学」の二つの段階に分けられる。
考古学的方法(『言葉と物』、1966年)は、ある時代の知を可能にする「エピステーメー」と呼ばれる知の条件を発掘する。フーコーはルネサンス、古典主義時代、近代というエピステーメーの非連続的な変遷を描き出し、「人間」という概念が18世紀末に出現した近代的な構築物にすぎないことを示して、構造主義と通底する「人間の死」のテーゼを提起した。
系譜学的方法(『監獄の誕生』、1975年、『性の歴史』、1976-1984年)は、ニーチェの系譜学から着想を得て、権力関係が知・制度・身体をいかに形成してきたかを歴史的に追跡する。フーコーの権力概念は、国家や法のような抑圧的な権力にとどまらず、規律・規範・知識の生産を通じて主体を産出する「生産的」な権力を含む。
ドゥルーズの差異の哲学
ジル・ドゥルーズ(1925-1995)は、西洋哲学が同一性と表象に基づいて差異を従属的に扱ってきたことを批判し、差異そのものを思考の出発点とする哲学を構築した。主著『差異と反復』(1968年)では、プラトン以来の同一性の哲学を覆し、差異が同一性に還元されることなく、それ自体として肯定される存在論を展開した。
フェリックス・ガタリとの共著『アンチ・オイディプス』(1972年)と『千のプラトー』(1980年)では、精神分析のオイディプス的枠組みを批判し、「欲望する機械」「リゾーム」「器官なき身体」「逃走線」などの独創的概念を通じて、樹木状の階層的構造に対する根茎的(リゾーム的)な思考モデルを提示した。リゾームは中心を持たず、あらゆる点が他のあらゆる点と接続可能な多方向的なネットワークであり、国家的・資本主義的な権力装置に対する脱領土化の運動を表現する概念である。
リオタールとポストモダンの条件
ジャン=フランソワ・リオタール(1924-1998)は、『ポスト・モダンの条件』(1979年)において、「大きな物語(グラン・レシ)」の終焉をポストモダンの本質的特徴として論じた。啓蒙主義的な理性の進歩、ヘーゲル的な精神の弁証法的発展、マルクス主義的な階級闘争による人類の解放といった「大きな物語」は、もはや信頼性を失った。ポストモダンの知は、多元的で局所的な「小さな物語」の並存として特徴づけられる。
ポスト構造主義の射程
ポスト構造主義は、倫理学・政治哲学にも重要な影響を与えた。デリダの「歓待」の思想、フーコーの「自己への配慮」の倫理、ドゥルーズの「内在」の倫理は、いずれも伝統的な倫理学の枠組みを超えた新たな倫理的思考の可能性を開いた。また、ジュディス・バトラーのジェンダー論、ガヤトリ・スピヴァクのポストコロニアル理論、エドワード・サイードのオリエンタリズム批判など、ポスト構造主義の方法は多様な批判的言説の理論的基盤を提供し続けている。