ドゥンス・スコトゥス - 個体化の原理と存在の一義性の哲学者
生涯
ヨハネス・ドゥンス・スコトゥス(Johannes Duns Scotus, 1266年頃 - 1308年)は、スコットランドのダンスに生まれたフランシスコ会の神学者・哲学者である。その精緻な議論と鋭い分析力から「精妙博士(Doctor Subtilis)」と称された。オックスフォード大学とパリ大学で学び、両大学で神学を講じた。
1303年、フランス王フィリップ4世と教皇ボニファティウス8世の対立に際し、教皇を支持したためにパリから追放されたが、翌年復帰してパリ大学の神学正教授(マギステル・レゲンス)に就任した。1307年にケルンのフランシスコ会学院に転任し、翌1308年にケルンで42歳の若さで急逝した。未完に終わった著作が多く、弟子たちによる編集・補完が行われたため、真正の著作の確定は現在も研究が進行中である。
存在の一義性
スコトゥスの形而上学の根本的な主張の一つが、存在の一義性(univocitas entis)の理論である。トマス・アクィナスは、神と被造物について「存在する」と言う場合、その意味は類比的(analogica)であると主張した。すなわち、神の存在と被造物の存在は同じ意味でも全く異なる意味でもなく、比例的に類似した意味で語られるとした。
これに対してスコトゥスは、「存在」という概念は神と被造物に対して一義的に(同一の意味で)述語されなければならないと主張した。もし存在の概念が神と被造物の間で完全に異なるならば、被造物の認識から出発して神について何かを知ることは原理的に不可能になり、自然理性による神学そのものが不可能になるというのがその論拠である。一義的な存在概念は、しかし、「無限な存在」と「有限な存在」という固有の差異によってさらに限定され、神の超越性は保持される。
この理論は形而上学を「存在としての存在の学」として基礎づける上で重要な意味を持ち、後に近世哲学における存在論の展開にも影響を与えた。
個体化の原理 ── このもの性
スコトゥスの形而上学において最も独創的な貢献とされるのが、個体化の原理としての「このもの性(haecceitas)」の理論である。アリストテレス以来、「なぜ同一の種に属する個体が複数存在するのか」という個体化の問題は形而上学の難問であった。トマス・アクィナスは個体化の原理を「指定された質料(materia signata)」に求めたが、スコトゥスはこの解答を不十分とした。
スコトゥスによれば、個体化の原理は質料でも形相でもなく、それらの複合体に付加される固有の積極的な実在性、すなわち「このもの性」である。このもの性は、ソクラテスをソクラテスたらしめ、プラトンをプラトンたらしめるものであり、種的本性に還元できない個体固有の存在論的原理である。この理論は、個体の存在論的尊厳を種や普遍に対して積極的に主張するものであり、中世哲学における個の形而上学の画期的な展開と評価される。
形相的区別
スコトゥスの形而上学に特徴的な概念として「形相的区別(distinctio formalis a parte rei)」がある。これは、実在的区別(実際に分離可能な二つのもの間の区別)と理性的区別(精神による区別に過ぎないもの)の中間に位置する区別である。形相的区別は、同一の事物の内に実在的に基盤を持つ異なる形相的側面の間の区別であり、例えば神の知恵と神の善は形相的に区別されるが実在的には一つである。
この区別は、認識論においても重要な役割を果たす。人間の知性は対象の異なる形相的側面を区別的に認識するが、その区別は純粋に精神的なものではなく、対象自体に根拠を持つ。形相的区別の理論は、スコトゥスの精妙な分析哲学の典型であり、後の分析的形而上学の先駆とも評価される。
意志の優位性
スコトゥスは、知性と意志の関係をめぐって、トマス・アクィナスの知性主義的立場に対して意志主義的立場を主張した。トマスが至福を知性による神の直観的認識に置き、意志を知性に従属させたのに対し、スコトゥスは意志こそが自由な自己決定の能力であり、知性に対して優位に立つと主張した。
意志は知性が提示する善に必然的に従うのではなく、自らの自由な選択によって行為を決定する。この意志の自由は、道徳的行為の基礎であるとともに、神の自由な創造の意志とも結びつく。神は倫理学的秩序を必然的に定めたのではなく、自由な意志によって定めたのであり、少なくとも十戒の後半部分(隣人に関する掟)は、神の意志によって変更されうるとスコトゥスは主張した。この神学的意志主義は、後の唯名論的伝統にも大きな影響を与えた。
後世への影響
スコトゥスの思想は、フランシスコ会の公式的な神学的立場として長く維持され、スコトゥス主義はトマス主義と並ぶ中世後期の二大学派の一つとなった。存在の一義性の理論は、スアレスを経て近代の存在論に影響を与え、このもの性の概念はライプニッツの個体概念論やジェラール・マンリー・ホプキンスの詩学に霊感を与えた。意志主義的な神学はオッカムに受け継がれ、近代の神学・哲学に深い影響を及ぼした。