意識の哲学 - クオリアと心身問題の探究

意識の哲学とは

意識の哲学(Philosophy of Consciousness)は、意識的経験の本質、意識と物質的世界の関係、意識の起源と構造を哲学的に探究する分野である。「意識とは何か」「なぜ物理的過程から主観的経験が生じるのか」「他者に意識があることをいかにして知るのか」といった問いは、哲学の中でも最も困難でありながら最も根源的な問題群を構成する。意識の哲学は心の哲学(Philosophy of Mind)の中核をなし、形而上学認識論、神経科学、認知科学と密接に交差する領域である。

心身問題の歴史

心身問題(Mind-Body Problem)は、心(精神・意識)と身体(物質・脳)がいかなる関係にあるのかを問う古典的な哲学問題である。デカルトは、思惟する実体(精神)と延長する実体(物体)という二つの根本的に異なる実体を区別する実体二元論を提唱した。精神は空間的広がりを持たず、物体は思考しない。しかし、精神と身体が因果的に相互作用することは日常経験が示しているため、全く異質な二つの実体がいかにして相互作用するのかという問題(心身相互作用問題)が生じた。デカルトは松果体を精神と身体の接点とする説を提示したが、これは問題を解決するものではなかった。

この問題に対して、マルブランシュの機会原因論(精神と身体の間の因果関係は神の介入によって成り立つ)、スピノザの二元的属性一元論(精神と物体は唯一の実体の二つの属性である)、ライプニッツの予定調和説(精神と身体は独立に展開するが、神によってあらかじめ調和されている)など、さまざまな応答が試みられた。

クオリア

クオリアとは、意識的経験の主観的・質的な側面を指す概念である。赤い色を見たときの「赤さ」の感じ、痛みを感じたときの「痛さ」の感じ、コーヒーの香りを嗅いだときの独特の感覚的質がクオリアである。クオリアは本質的に一人称的(私的)であり、三人称的(客観的)な記述に還元することが極めて困難である。

ジャクソンの「メアリーの部屋」思考実験は、クオリアの還元不可能性を示す有名な議論である。色覚に関するすべての物理的・神経科学的知識を持つ科学者メアリーが、生まれてから白黒の部屋で生活しているとする。メアリーが初めて部屋から出て赤い色を見たとき、彼女は何か新しいことを学ぶのか。もし学ぶとすれば、物理的知識だけでは捉えられない意識経験の側面(クオリア)が存在することになり、物理主義は誤りであることになる。

意識のハードプロブレム

チャーマーズは1995年の論文で、意識の問題を「イージープロブレム」と「ハードプロブレム」に区別した。イージープロブレムは、知覚・注意・記憶・行動制御といった認知的機能のメカニズムを解明する問題であり、原理的には神経科学的な研究によって解決可能である。これに対しハードプロブレムは、「なぜ物理的過程に現象的意識(主観的経験)が伴うのか」という問いである。脳の神経活動が情報処理を行うことは理解できるが、なぜそこに「何かであるような感じ」(ネーゲルの表現)が生じるのか。この問いは、現在の科学的枠組みでは原理的に解けない可能性があるとチャーマーズは論じた。

主要な立場

意識の本質に関する現代の主要な哲学的立場は以下の通りである。

物理主義(唯物論) は、意識を含むすべての現象は物理的過程に還元されるか、物理的過程に随伴するとする立場である。同一説(精神状態は脳状態と同一である)、機能主義(精神状態はその因果的・機能的役割によって定義される)、消去的唯物論(「信念」「欲求」などの民間心理学の概念は将来の神経科学によって消去される)などがある。

性質二元論 は、物理的実体が意識という非物理的な性質を持つとする立場であり、チャーマーズの自然主義的二元論がその代表である。チャーマーズは、意識は物理的な情報処理に随伴するが、物理法則には還元されない基本的な自然的性質であると論じた。

汎心論 は、意識が物質のあらゆるレベルに存在する基本的な特性であるとする立場である。近年、ハードプロブレムへの一つの応答として注目を集めている。

現象学的アプローチ

ハイデガーサルトルに代表される現象学的伝統は、意識の問題に対して分析哲学とは異なるアプローチを提供する。現象学は意識を対象として客観的に分析するのではなく、意識経験そのものの構造を一人称的な記述を通じて解明しようとする。フッサールの志向性の概念(意識は常に何かについての意識である)は、意識の基本的構造として現象学の出発点となった。サルトルは意識を「対自存在」として捉え、意識は常に自己を超え出る運動であり、物のように固定された本質を持たないとした。

意識の問題は、倫理学における動物の道徳的地位の問題(動物に意識はあるか)や、人工知能研究における機械の意識の可能性の問題とも直結しており、哲学と科学の境界を跨ぐ現代の最重要課題の一つである。

関連項目