倫理学 - 善と正義をめぐる哲学的探究

倫理学(Ethics)は、善悪・正不正の基準を問い、人間の行為の道徳的価値を探究する哲学の一分野である。「いかに生きるべきか」「何が善い行為であるか」「正義とは何か」といった問いは、古代ギリシャ以来、哲学の中心的課題であり続けている。

古代ギリシャでは、ソクラテスが「徳は知識である」と主張し、プラトンは善のイデアを倫理の究極的根拠とした。アリストテレスは徳倫理学を体系化し、幸福(エウダイモニア)を人間の最高善と定義して、中庸の徳を実践する生き方を理想とした。ストア派は自然の理法に従う生を、エピクロス派は快楽と平静を追究する生を倫理の基本原理とした。

近代倫理学では、カントが道徳法則の普遍性と定言命法を基軸とする義務論を確立した。「汝の意志の格率が常に同時に普遍的立法の原理として妥当しうるように行為せよ」という定言命法は、行為の結果ではなく動機の道徳的純粋さを重視する。一方、ベンサムとミルは功利主義を提唱し、「最大多数の最大幸福」を行為の道徳的評価基準とした。功利主義は行為の結果がもたらす幸福の総量を基準とする帰結主義の立場をとる。

現代倫理学では、20世紀後半にアンスコムやマッキンタイアらによって徳倫理学が復興された。また、ロールズの『正義論』は公正としての正義の理論を展開し、現代政治哲学・倫理学に多大な影響を与えた。応用倫理学の分野では、生命倫理・環境倫理・情報倫理など、現代社会が直面する具体的な道徳問題への哲学的取り組みが活発に行われている。